第十八回 「パチステ交換会」に長蛇の列
■『テレビのツボ』遂にブレイク! でも、ぜんじろうは未だ……。
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前回に続き、『テレビのツボ』の話をお尋きします。自分もこの番組に構成で携わらせていただいて思うのは、番組の人気に火がついたのは放送開始から半年くらい経ったあたりではないかと。半年後に深夜にも関わらず視聴率が10%を越えましたし。
ぜん
そうですね。「この番組、もっと人気が出てもええんちゃうか?」と思ってた時期には、本当になんのリアクションもなかったんですよ。そんで、「もうええわ。こんなに頑張っても、なんにもなってないやんけ」と諦めた頃にやっと周りがワー! っとなった気がします。番組の「ステッカー交換会」をやったでしょ?
――
*「パチステ」ですね。
ぜん
そうそう、パチステ。間違って印刷されたステッカーを視聴者に配るという。印刷のおかしいステッカーなんて誰が貰うねん、って普通は思うじゃないですか。そしたら毎日放送の前でグッワ〜って人が並んで、それ見てビックリしてね。「あ、こんなに観てる人がおんねや」って、その時はじめて思いましたわ。ほんで視聴者にサインもしいの、写真も一緒に撮りぃの。
――
その日が、まさにぜんじろうさん自身のブレイクだったのでは?
ぜん

いや、それはないです。なんせ帰りはステッカーを手に持った人と一緒に地下鉄で帰りましたから(笑)。そんで、さっきまで同じ場所にいた人たちが僕のこと無視してましたからね。そんなスター、おらへんでしょ(笑)。

――
ん〜。あくまで番組のファンであって、自分のファンではないと。
ぜん
たぶん、僕よりも先に、*大桃美代子さんが人気が出たんです。スタッフからも「大桃さんは凄いな。それに較べて、ぜんじろうは……」みたいなんが、どっかにあったと思うんです。それが僕のなかでずっと引け目な部分で。そんな感じ、あったでしょう?
――
いや、そんなことは……あったような、なかったような……。忘れました(笑)。大桃さんの名前が出たんでお尋きします。「大桃さんのギャラを聞いて、思わず泣いた」という話を聞いたことがあるんですが、それは本当ですか?
ぜん
いや、それはないです。それは知らないですね僕は。ギャグで「深夜に生放送やって、一本たった5000円」って言うたことはあったけど、実はギャラいくらもらってたか知らないんですよ。もちろん大桃さんがいくら貰ってたかなんて知りません。給料明細って見ないんです。
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あ、そうなんですか。
ぜん
細かい性格に見られがちやけど、意外とどんぶり勘定なんですよ。
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じゃぁ入金漏れがあったんじゃないですか?
ぜん
あったんじゃないですかね〜。でも給料明細を見てしまうと、「ギャラが高い番組を頑張ろう」としてしまうじゃないですか。
――
なるほど。お金の話はさて置いて、ご自身の人気へのフィードバックは感じなかったですか。
ぜん
一回、「あ、これや!」と思ったのがね、学園祭に行った時、ありえへんくらい「ギャー!」って言われたんですよ。人が押し寄せて将棋倒しになるくらい。それ見て、「あ、ちょっとは人気あるんやな」とは思いました。ただ、その夜にミナミに出ても相変わらず顔ささへんし、よくわからなかったですね。状況が飲み込めなかった。
■生放送「アブナイ奴」乱入事件
――
もういい加減、顔バレしてもよさそうな時期ですのにね。
ぜん
まったくないですよ。だって、放送やってる「うめだ花月」のガードマンが、僕のこと知らないんですよ(笑)。毎日、通用口で「あんた誰? ここに名前書いて」って。まだ認めへんのかい! そらそう簡単には喜べないですわ。
――
ワハハハ。でもそれ、ひどい話ですよね。毎日通ってるのに。それ以前に、吉本の劇場で働いてて芸人さんの顔を憶えてないって。そのくせ、簡単にアブナイ奴を通しますからね。一度、番組におかしな奴が乱入してきたの、憶えてますか?
ぜん
ありましたね! そんなこと。ビックリしましたわ。キチガイみたいな奴がね。
――
キチガイみたいというか、純粋にキチガイでしたね。生放送中に乱入してきて。あれ、刃物を持ってたらヤヴァかったですよ。
ぜん
僕ね、あれ、誰かの知り合いやと思ったんですよ。あとで聞いたら、通用口をノーチェックで入ってきてるんですよね。
――
いったいなにをガードしとんのか。
ぜん
なにが腹立つってね、「俺は、そいつより怪しいんかい!」と(笑)。
――
ただ、「相変わらずミナミで顔ささへん」「ガードマンが自分を認識してない」という諦めやヤケクソが、ぜんじろうさんを奮起させて良い方向に導いた気がするんです。僕が裏方で観てて、開始から半年経ってからのぜんじろうさんのノリは凄かった。傍目にも「掴んだ!」って感じがしましたもの。
ぜん
最初は、芸人やから「立て板に水」で喋ろう喋ろうとしてたんです。でも、「あ、なるほど。この番組はそんなトーク求めてないんや」と気がついてね。そんで、少々ナニ言うてるんかわからなくてもいいから、がむしゃらに喋ったんです。そしたら凄く楽になりましたね。
――
芸人さんにこんなことを言うたら失礼かもしれないけど、話芸よりも、ハートから湧き出るトークを求められてたんですよね。それが深夜にも関わらず眠らない若者たちに届いて共感を得たんじゃないかな。
ぜん
それは大桃さんや*藤岡久美子さんやスタッフやチャンネル君らに支えられて好きに遊ばしてもろたから、できたんやと思います。それが有り難かったですね。最初は「自分はこの番組では、マンションで言うたらレンガの一個や。だから控えめにせな」と思ってたんです。でも「レンガの一個やねんから逆に遊ばしてもらおう」と考え方を変えたら、楽になりましたわ。
  
 こうして「関西一のええ兄ちゃん」ことぜんじろうは、番組のなかで居場所を見つけ、自由に遊び泳ぐことができるようになった。さらに、深夜のフリースペースで活き活きと跳ねるぜんじろうに、他局の番組が目をつけるのは自然の摂理。
 しかし、本来のぜんじろうの持ち味は、毒。「関西一のええ兄ちゃん」は、あくまでテレビのツボのなかでのキャラクターにすぎない。そして「関西一のええ兄ちゃん」像が、しだいにぜんじろう自身を束縛してゆくことになろうとは。
 *パチステ 『テレビのツボ』のロゴは、なんと浜田ディレクターの手彫り版画(どこまで低予算なんだ!)。「の」の字をわざと裏にひっくり返しているのがロゴのツボなのだが、印刷所が「これは間違いだ」と勝手に判断し、気を利かして修正してしまった。そこでこの誤って刷り上がったステッカー(通称:パチステ)と、視聴者の家にあるステッカーを交換するという前代未聞のイベントを開催。毎日放送を何周も取り巻く長蛇の列となった。また交換されたステッカーはすべて番組セットに貼り出され、他局の番組ロゴがズラリと並ぶことに。これもまた、前例がない。
*大桃美代子 月〜水のパートナーをつとめたMCタレント。テレビのニュース番組、料理、クイズ番組、情報番組と幅広く活躍。NHK『クイズ日本人の質問』では「大桃博士」の愛称で親しまれた。テレビのツボでは、学生時代に「ミス・アイスクリーム」に選ばれていた過去が暴かれた。
*藤岡久美子 木・金のパートナーをつとめたMCタレント。口元のホクロが特徴で、大桃さんとうって変わって庶民的ないじられキャラ(例えば、野球に興味がないのに無理やりロッテファンにさせられたり)で人気を二分した。現在はオーストラリア在住
(以上、人名については敬称略)
 
TEXT■吉村智樹 テープ起こし■泡の屑 撮影■おーしま2号 浪花の小池栄子
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