第十二回 「てんそ」をクビになった夜
■まるで中間管理職のような板ばさみ
――
前回は、ぜんじろうさんが結成した「死ね死ね団」というお笑いユニットが「吉本印天然素材」というビッグプロジェクトへと進展してゆくまでのお話を伺いました。大阪ではなく、いきなり東京から番組スタートというのが凄いですね。
ぜん
「話が大きくなったぶん、いままでの趣味っぽいノリのままではできなくなっていきましたね。たとえばダンスをするとか。売れるためにどうしたらいいかという計画が、僕らよりもっと上の方で決まってゆくんです」
――
それにはメンバーは納得していたんですか?
ぜん
「若いメンバーの間には、不満がいっぱいでしたね。東京でやるという大きさや嬉しさよりも『お笑いがやりたくてこの世界に入って、なんで踊らなあかんねん』という不満の方が強いんです」
――
そうでしょうね。自分たちの笑いへのこだわりもあるだろうし、トガッてる時期だろうし。しかしそうなってくると、ぜんじろうさんが大変ですよね。自分が選んだメンバーたちが不満を抱いているというのは、辛い立場ですよね。
ぜん

「年長者として、代表して演出家に言わないといけないじゃないですか。『なんで踊らなあかんのですか?』と。それを言うのは、だいたい僕と軌保(TEAM−0)でした。軌保は特に売れるより自分の笑いを突き詰めたいタイプで、のちに自分たちから辞めていきました」

――
そうだったんですか。ぜんじろうさんも辞めたいと?
ぜん
「いや……僕は、石にかじりついてでも残りたかった(笑)。ただ、そうとううっとうしがられてましたね。売れるためには踊らなあかんのもわかる。でも僕には僕の戦略があるわけですよ。むこうにも計画があるし、僕にもある。それが相容れなかった部分はあったと思います」
――
お話を伺っていると、部下と上司の間で板ばさみになってる中間管理職のような。
ぜん
「そうですね。下の世代とのギャップも感じていきました。僕はすぐ『どうやったら生き残れるか』という小賢しい策を練ってしまうんです。まず戦略なんです。でもほかのメンバーは、本番ギリまで漫画を読んでる。そんで本番が始まったらパッとネタやって、さっとはけれる。僕にはそれができないんですよ。それをやれることが羨ましかったし、芸人としての純粋さや新しさも感じたし、居心地が悪くなっていった原因でもあるんですよね」
――
旧世代と新世代のはざまで、一番キツい立場ですよね。う〜ん。でも策を練ることは、決して悪いことではないと思うんですが。
ぜん
「その策が、ハズれてたんでしょうかね(笑)」
■「ぜんじろう、悪いけど辞めてくれ」
――
でも東京の番組にはずっとお出になってらっしゃいましたよね?
ぜん
「数カ月間は出てました。そんで泉さんに呼び出されたんです」
――
うっ! 察しがつくんですが、それはどういった用件で?
ぜん
「『ぜんじろう、悪いけど辞めてほしいねん』って」
――
あぁ……。
ぜん
「しかも、それ12月31日ですよ」
――
えーっ! なにもわざわざ大晦日に。
ぜん
「除夜の鐘鳴っとるっちゅうねん(笑)。ショックで立てなくなりましたわ。『年、越されへん……』。ものすごブルーになりましたわ。『ああ、俺はもう終わった……』と」
――
…………さぞ悔しかったでしょうね。
ぜん
「悔しいのも確かにありましたけど、それより反省の方が大きかったですね。やっぱり俺のやり方ではあかんかったのかなと。実際、客観的に見て僕がネックやったと思いますよ。僕を切ってから、てんそはめっちゃ売れましたからね(笑)」
――
申し訳ないけど、ほんとそうでしたよね(笑)。いや、笑ってごめんなさい。そのあと、すぐに立ち直られましたか?
ぜん
「ぜんぜんですよ。その日より、あとのほうがキツかったですね。ラジオ関西の番組も半泣きでやりました。『てんそ降ろされた〜』言うて。リスナーがたくさん励ましの手紙をくれて、それがしばらく心の支えでした」
――
ラジオって、やっぱりいいですよね。
ぜん
「そうなんですよ。それからラジオは、さらにこっぴどいことをやりはじめました。全編中国語のテープを流して、それにツッコんでるだけとか(笑)。まわりのスタッフも『そこまでやるか? やらなあかんか?』ってヒいてましたもん」
――
よりいっそう過激になることがリスナーの恩返しだったんですね。しかし漫才で頂点に立ちながら白紙に、てんそでまた白紙に。ほんとアップダウンの激しい人生ですよね。
ぜん
「いや、漫才の時代があったからこそ耐えれたんやと思います。『またゼロに戻っただけや。また、一からやりなおしたらええねん』と、そう考えられるようになりましたね」

 こうして、ぜんじろうの「てんそ」時代は幕を閉じた。戦略家で、決して“天然素材”ではなかった男に吹いた刹那の風。しかし、お笑い界のキーパーソンたちを選び抜いた眼力、そして彼らが世に出るきっかけを作ったことは功績として讚えるに充分ではないだろうか。
 次回、ぜんじろうが「いまも尊敬している」という「てんそ」6組の素顔に迫る。

 
TEXT■吉村智樹 テープ起こし■泡の屑 撮影■おーしま2号
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