第八回 ABC漫才落語新人コンクール狂想曲
■「エンタツ・アチャコの再来や」
―― 前回は、漫才コンビ「かなめ・ぜんじろう」が結成一年も経たないうちに『AB C漫才落語新人コンクール』に出場することになった、というところまでお話を伺ったのですが。
ぜん 「その日ね、朝の早よから親父が応援に来てるんですよ。バス借りきって、町内 の人みんな乗せてね。甲子園の応援やないっちゅうねん(笑)」
―― わははは! でも息子の応援のために町内中の人を連れてくるって、いいお父様じゃないですか。
ぜん 「いいっちゅうか、よすぎるんですよ。親父がみんなにね、『ええか、ほかのコ ンビで絶対に笑うなよ。かなめ・ぜんじろうだけ笑えよ。息子だけ笑えよ!』いうて脅しとるんです。そんで僕らの出番が最後やったんですよ。そやから僕らが出てくる まで、ほかの誰が出てきても『シーン……』ですわ。その一角だけ(笑)」
―― そりゃ、ほかの出演者はやりにくい。
ぜん

「そうでしょ。司会の桂三枝さんがCM中に『さっきからそこだけ笑ろてまへん けど、大丈夫ですか〜』いうて声をかけるくらい」

――

三枝さんが不審に思うくらい笑ってなかったんですね。

ぜん「そんで僕ら出番の紹介があったら、もう大騒ぎですわ。『姫路の大スター ぜ んじろう』いう垂れ幕おろしてね。太鼓ドーン! ドーン! 叩いて」
――それ、ほんとに甲子園じゃないですか(笑)。
ぜん「親父ね、はちまき巻いてるんですよ。日の丸の(笑)。特攻隊やないっちゅう ねん(笑)」
――ほかのコンビが鬼畜米英に見えるくらい応援してたんでしょうね。
ぜん「そんで、僕らが出てくるでしょ。そしたらメガホンで『がんばれー!』『おも ろいぞー!』いうて(笑)。まだ、おもろいこと、なんも言うてへんのに(笑)」
――親心は嬉しいですけど、正直、芸人さんにとってはもっともやりにくいシチュエーションですよね。
ぜん「ほんまですよ。ただね……その様子をテレビで林正之助会長*が観てはったんで す」
――

え! よ、吉本のドンがですか?!

ぜん「そうなんです」
――林会長、怒ってはったんとちゃいますか?
ぜん「それが、逆なんです。林会長ね、僕らの漫才を観て、『……エンタツ・アチャ コの再来や……』って呟きはったんです」
――わはははは!(コーヒー吹き出す) いえ、あの、爆笑してしまってすみません。あまりに唐突だったもんで、つい。
ぜん「それだけやないんですよ。会長ね、ABCに電話してるんですよ。『彼らはエンタツ・アチャコの再来や! 再来や!』いうて。ABCのほうも会長直々に電話がかかってきたもんやから、ビックリしてね。えらい騒ぎですわ。そんで冨井さんが僕らのところへ来て、『会長が君らのこと気にいったそうやから、あとで会長室に来なさい』って。それを聞いた相方の月亭かなめさんが『やった! 優勝や!』いうて喜んでね。まだ受賞の発表もなにもないときにですよ。そんでほかのコンビとかから、『なんや、なんかウラがあるんちゃうか?』いうて疑われて、これでまた揉めて。楽屋裏は一時、えらい騒然となったんです」
――そんなことがあったんですか。いやぁ……。
ぜん「そうです。そんなんがあって結局、僕らが優勝しまして」
――え? それで優勝したわけじゃないでしょう。実力でしょう?
ぜん「そんなことはないでしょう。吉本も130Rが獲ると踏んでたんです。これで優勝して、ポストダウンタウンとして売ろうと。130Rを担当してた大崎さんも観にきてはったし。そやけど、もっと上の会長が『エンタツ・アチャコの再来や』って言うたもんやから、僕らに賞をやらなしゃあないようになったんちゃいますかね」
――いやいやいやいや、そんなことはないと思いますよ。厳正な審査だったに違いないです。かなめ・ぜんじろうが一番おもしろかったんですって。って、さっきからなんでおれがフォローしてんねん(笑)。
■「一番高いスーツを買いなさい」
――それで受賞後、会長室に呼ばれたんですよね。
ぜん「そうです。そんで僕らを見るなり、『エンタツ・アチャコの再来や……。エン タツ・アチャコが来た……』て、うわごとみたいに」
――きっと、おふたりの漫才に、爆笑王だったエンタツ・アチャコの姿が重なって見えたんでしょうね。
ぜん「いや、たぶんボケてはったんやと思いますよ(笑)。で、会長がこう言わはっ たんです。『エンタツ・アチャコの漫才は、とにかく新しかった。スーツを着て、おしゃれで、上品で。君らの漫才に、それを感じた』と」
――確かにおっしゃる通りだと思いますよ。それまで着物を着て、鼓と三味線を持ってやるのが当たり前だったのに、初めてスーツを着て、しゃべくりだけでやったんで すからね。いまでこそ古典と言われてるけど、当時のお客さんからしたら、目ン玉ひっくり返るくらい前衛的でニュー・ウエイブだったと思います。
ぜん「それに戦地に漫才で慰問に行ったり、それまでなかったこといっぱいやっては るんですよ。そういう話をね、たくさんしてくれはってね。これはありがたかったですね。そんで、『エンタツ・アチャコはスーツ着てたのに、君らその汚いジーパンは なんや。いますぐ高島屋に行って、スーツ買うてきなさい』いうて、連れていってくれはったんですよ」
――え、会長がですか?
ぜん「会長の指示で、社員の方がね。そんで連れていかれたのが高島屋で一番高い店 ですわ。そこで『一番高い服を買いなさい。オーダーメイドしなさい』いうてくれて」
――それは凄い! 会長ぜんぜんボケてないじゃないですか。本気じゃないですか。
ぜん「そうですね。ボケてないでしょうね。なんせそのあとスーツ代、毎月2万円づつ引かれてましたからね(笑)」
――買ってくれたんやないんかい!(笑)。でも、そこが吉本の凄いところですね。
■「タレントみたいなもん、テレビがなかったら乞食みたいなもんや」
――ところで、この受賞を両師匠は喜んでくれましたか?
ぜん「上岡師匠は、『ほう、よかったよかった。これで君らと一緒にナンパできるわ。君らの人気にあやかれるわ』いうて、喜んでくれました。そんで耳元で『……うまいことやれよ。うまいこといけよ』って言うてくれはって」
――上岡流のクールさが伝わってきますね。
ぜん「それにね、ほんまに一緒にナンパ行ってくれはるんです」
――ええ師匠や〜(笑)。方や、月亭八方師匠は、どうでしたか?
ぜん「八方師匠はね、厳しい方なんですよ。弟子にすごく愛情がある方で、それだけにほんまに厳しいことをおっしゃるんです。『ABCの新人賞? そんなもん獲っても、大阪で65人くらいしか知らんわ』いうて」
――65人くらい(笑)。八方さんらしい言い方。しかし僕の印象では、八方さんのほうがやさしいというか、お弟子さんに対してゆったりとした方なのだとばかり思ってました。月亭かなめさんにしても、元どんきほーてのきびのだんごさんにしても、落語家の弟子なのに漫才に進んで、それをお許しになるというのが。
ぜん「そうなんです。落語家が漫才をやるとか、そういうことには寛大なんです。ただ、『やるんやったら、最後までやれよ』という方なんです。『漫才やるんやったら、一生やらなあかんぞ。ピンでわけのわからんタレントになりたいと思ってるようやったら、いますぐやめてまえ。タレントみたいなもん、テレビがなかったら乞食みたいなもんや。芸人になりたいんか、タレントになりたいんか、はっきりせんと。漫才師になるんやったら、ほんまもんの漫才師にならんとあかん』と」
――なるほど。深いお言葉ですね。
ぜん「正直、頭のなかで『ピンと漫才と両方やれたらいいな』と思ってたんですよ。どっちにも逃げられるでしょう。それを見透かされてたんでしょうね。八方師匠は見抜いてはったんやと思います。ただ僕らね、トントン拍子だったでしょう。会長があちこちに声をかけてくださって、レギュラー番組も増えていってね。そんで関西だけやなく、名古屋でも番組を持たせてもらえることになってね。吉本は『ダウンタウン、圭修の次は、かなめ・ぜんじろうを東京へ』っていう考えがあったんですよ。僕ら、そんななかで八方師匠の言葉を頭のなかで整理する時間がなかったんですよ。舞いあがってましたしね」
  
 

 関西のみならず、名古屋で番組を持つことになった、かなめ・ぜんじろう。人気はうなぎのぼり。そしてその人気は北上。東京進出は目前だった。
 しかし、神は彼らを関ケ原から向こうへ越えることを許さなかった。名古屋で得たレギュラー番組が、ふたりの決裂のきっかけを作ってしまったのだ。それはまさに、月亭八方の預言通りに……。

註*富井さん 吉本興業のマネージャー。トミーズの生みの親。
註*林正之助 吉本興業創業者・吉本せいの弟にして、笑芸繁栄の礎を築いた男。1991年没。享年91歳。ダウンタウンの漫才で、老人が杖をつきながら「こいつら、消せ!」と言うネタがありますが、それがこの人。
註*エンタツ・アチャコ 横山エンタツ・花菱アチャコ。昭和5年結成。それまでの着物を着た音曲中心の「萬歳」(万才)から、スーツ姿でしゃべくる「漫才」を確立したエポックメーカー。花紀京は横山エンタツの次男にして弟子。活動期間はわずか5年だが、この5年で演芸界に大きな変貌をもたらし、近代漫才の礎を形成した。猛烈なスピード、矢継ぎ早に繰り出されるナンセンスギャグ、小気味よいリズムとテンポで演じられたネタ「早慶戦」はいまも伝説。野球ネタが得意だからといって「早すぎたストリーク」とは誰も呼ばない。まして「早すぎたギャオス」とは。

   
  ◎ぜんじろうトークライブのお知らせ
 

「ぜんじろうの処方せん 2回め」

出演:ぜんじろう、井上マー、椿鬼奴、増谷キートン、ハローケイスケ、山本吉貴
(元チャイルドマシーン)、他

場所:新宿歌舞伎町『ロフトプラスワン』
http://www.loft-prj.co.jp/PLUSONE/
日時:2月22日(火) 18時半開場 19時半開演
料金:1500円(飲食別)

   
 
TEXT■吉村智樹撮影・協力■零まどか 木の葉燃朗
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