第七回 お笑いの神々の啓示
■「芸がないうちは、労働力で補え」
―― 前回は「今宮子供えびすマンザイ新人コンクールの大賞受賞をきっかけに、漫才を真剣にやってみようと思った」というところまで伺ったのですが。
ぜん 「そうなんです。それまで自分が漫才師になるなんて思ってなかったけど、漫才って深いな、追求したいなと思ってね。ただね〜、そっからえらい悩みましたよ。 当時、大阪で漫才といえば、ダウンタウンさんと圭修さんが人気を二分していたでしょう。このふた組とは違う形で、自分たちの漫才を作るにはどうしたらええねや と」
―― そうですよね。ふた組ともまったく色が違うし、さらにほかにどんなパターンがあるのか……。
ぜん 「ダウンタウンさんが人気が出てから、ああいうトーンの漫才がごっつ増えたんです。ゆっくりしたトーンで、ぼそぼそ喋る感じの。でもダウンタウンさんは才能が あるから、あの形が面白いんであって、ヘタで才能ないやつが形だけ真似したところで、ほんまにだらだらしたチンピラの立ち話でしょう。方や圭修さんは正統派な、き れいな、フレッシュな漫才でね」
―― 大学生のかっこいいお兄さんが爽やかな漫才をやってるっていうイメージがありましたよね。
ぜん

「そんなんで、『ほかにどんな形があんねん……』って、ずっと考えてましてね。そんで、お手本とするべきは、やはり『漫画トリオ』だろう、と思ったんです」

――

あぁ、上岡師匠の!

註*「漫画トリオ」 ノック(横山ノック)・フック(青芝フック)・パンチ(上岡龍太郎)の3人によるトリオ漫才。「パンパカパーン! 今週のハイライト!」のかけ声とともに時事問題をもとにした短いネタをオムニバスでつないでゆくスタイル。
それまでの上方演芸にはなかったきわめて斬新な漫才だった。昭和43年、横山ノックが参議院議員となり、解散した。早すぎた「ザ・ニュースペーパー」。

ぜん「師匠についてから、昔の漫才のビデオとか観る機会がありましてね。スピード感があって、テンポが早くて、ギャグの切れ味が良くて、いま観てもめっちゃおもろ いんです。僕も漫画トリオみたいな漫才、やりたいなぁと思ってね。そんな時、ちょうどノックさんと番組で一緒になって、『漫才教えたる』って言うてくれはってね」
――おお! ご本人直々に。なんだか、目標とするものに導かれているようですね。
ぜん「ノックさんの家に行きましてね。言うてくれはったんが、『ええか、でっかい舞台は、でっかく動け』と。『昔の漫才は、ふたりで喋ってた。でも、うちはとにか く動いた。話術とか、そんなんはそのあとの話や』と」
――なるほど。
ぜん「ありがたい話でね。でね、別の日に、うちの師匠と鶴瓶さんと読売テレビの白岩さんが戦略を立ててるのを、そばで聞いたんです。『夕方5時に森脇健児さんと山 田雅人さんで番組をやる。どうしたらええやろう』と」
――『ざまあKANKAN!』ですね。
ぜん「ちょうど裏で圭修さんが番組をやってはる時間ですわ。しかも4時からはダウンタウンさんが『4時ですよ〜だ!』をやってる。夕方はこのふた組が独占してる状 態でね。そんで師匠と鶴瓶さんが、こう言わはったんですよ。『芸がないうちは、労働力で補わなあかん』と
――奇しくもノックさんと同じことを。
ぜん「そうなんです。『ダウンタウンは才能がある。話術がある。だから座ってやるコーナーがあってもええ。そうやないんやったら、立ってやらないかん。森脇も山田 も、正直そないおもろないんやから、勢いつけていかんと』いう話をしてはって。そうか! と思ってね」
――師匠方のおっしゃる通り、ほんとにのちに森脇さんと山田さんの人気が圭修さんを凌ぎましたもんね。その指摘は凄いですね。しかし『ざまあKANKAN!』のヒットの裏に、上岡・鶴瓶の助言があったとは。今日はもう目からウロコがボトボト
落ちてますよ。
ぜん「ほんまにね。それからね、師匠の言葉に聞き耳を立てるようになったんです。師匠は若手の漫才の番組を、よう観てはるんですよ。そんで、いっつもブツブツ言う てはるんです。『このコンビは、あかん。ひとりがようけ喋っとる。ふたりが同じ量の言葉を喋らな』『ボケとツッコミにとらわれすぎてる。ボケとツッコミとは“会 話”なんや。会話のなかから、それが出てこんと』『漫才は文字に起こさなあかん。一行に一回、笑いがないとあかん。3行書いて笑いがなかったら、そのネタは捨てな あかん』『漫才は理屈から入らなあかん』いう話をね、独り言でずーっと言うてはるんですよ。そんなんがどんどん耳に入ってきてね。あぁ、師匠の言葉って、やっぱり 聞き逃されへんなぁ、と。それで、だんだん自分の漫才の形が見えてきたんです」
――漫才を真剣にやろうと思ったから、ぜんじろうさんの耳が研ぎ澄まされてきたんでしょうね。なるほど、かなめ・ぜんじろうの漫才って、漫画トリオの正統後継だったのか。謎が解けた気がします。
■ABC新人漫才落語コンクール 前夜
――師匠たちの教えがあってか、かなめ・ぜんじろうの漫才は本当にダイナミックでしたよね。ダイナミックというより、もはやスペクタクルというか。クジラを客席に投げるネタあったでしょう? あれなんて、ないはずのクジラが見えましたもん。
ぜん「クジラ! 実物大! それー!(笑)。ありましたね、そんなネタ」
――アクションだけじゃなく、言葉の躍動感が凄かったです。「めっさ嬉しい」「ごっさ嬉しい」とかね。いまでこそ笑い飯のギャグみたいになってるけど、もともとは、かなめ・ぜんじろうですもんね。
ぜん「あ、笑い飯、そんなん言うてるんですか。あのギャグ、ナイナイの岡村がようパクッてくれるんですよ(笑)。『ゴンザレッさ嬉しい、いうねー』言うてね (笑)。このギャグで上新電機のCM来ましたからね」
――わははは。生で聞けた〜。で、かなめ・ぜんじろうの漫才の面白さが一躍世間に広まったのが「ABC漫才落語新人コンクール」だったと思うんですが。
ぜん「そうですね。今宮えびすのコンクールから約半年後、結成1年も経ってないのに本選に出させてもらえることになりましてね。ただね、この年の優勝候補は、別の コンビだったんですよ」
――それは、どなたですか?
ぜん「130R(板尾創路・蔵野孝洋=ほんこん)です」
――わっちゃ〜、それは強敵ですね。
ぜん「強敵もなにも、大方130Rが優勝するやろうと思ってたし、吉本もそれを願ってたんです。僕らなんか、ぜんぜんでしたよ」
  
 

 毎年、成人式に半日ぶっ通し生放送で行われる「ABC漫才落語新人コンクール」(現:ABCお笑い新人グランプリ)は、あまたある演芸新人賞とは一線を画す、注 目のコンテストである。かつての最優秀新人賞受賞者はダウンタウン、トミーズ、ベイブルース、チーム0(山崎邦正)、ナインティナイン、中川家、ハリガネロック、 フットボールアワー、レギュラー、キングコング、千鳥、などなどそうそうたるメンツ。
 いやむしろ、ハイヒール、ティーアップ、雨上がり決死隊、よゐこ、千原兄弟、ジャリズム、メッセンジャー、サバンナ、2丁拳銃、シンドバット(ザ・プラン9の 鈴木つかさ)、陣内智則、シャンプーハット、アメリカザリガニ、ルート33、りあるキッズ、チュートリアル、ランディーズ、レイザーラモン、ビッキーズ、ブラックマ ヨネーズ、麒麟、笑い飯、なかやまきんに君、安田大サーカス、友近、南海キャンディーズらが「最優秀賞を受賞できなかったコンテスト」と言えば、この大会がいか ほどハイレベルで熾烈極めるかがおわかりいただけるだろう(しかし、祝日の朝から晩までお笑いの新人コンクールを放送する大阪っていったい……)。
 そんな大舞台に「ぽっと出」で登壇することになった、かなめ・ぜんじろう。しかし、事態はとんでもない方向に進んでいく。それは年号が変わる、平成元年のこと だった。次回、おそらくマスコミ初公開であろう驚きのエピソード大噴火の、「ABC新人漫才落語コンクール狂想曲」をお届けします。

   
  ◎ぜんじろうトークライブのお知らせ
 

「ぜんじろうの処方せん 2回め」

出演:ぜんじろう、井上マー、椿鬼奴、増谷キートン、ハローケイスケ、山本吉貴
(元チャイルドマシーン)、他

場所:新宿歌舞伎町『ロフトプラスワン』
http://www.loft-prj.co.jp/PLUSONE/
日時:2月22日(火) 18時半開場 19時半開演
料金:1500円(飲食別)

 
TEXT■吉村智樹撮影・協力■零まどか 木の葉燃朗
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